
東京公証人会は、平成13年11月から、公証人がNPO法人司法過疎サポートネットワーク
「小笠原くらしの法律税金相談・法律教室」に参加するようになり、
平成16年度からは、会として組織的に公証人を小笠原諸島に派遣するようになり、
現在に至るまで、毎年、継続して、小笠原諸島において公証相談を実施しています。
令和元年9月の小笠原諸島における公証相談
1 24時間もかかる船でしか行けない東京都内(車のナンバーは驚きの品川、もちろん軽4)の世界遺産、それが小笠原です。人の住んでいるのは、小笠原の父島と母島だけで、しかも貴重な独自の生態系を護るために、動植物は持込み禁止です。犬猫のペットが見当たらない、ずいぶん遠い島に思います。裁判所もなく、弁護士、司法書士、税理士の方も公証人も住んでいません。しかし、当然のことながら、住んでいる人には税金、相続、損害賠償等色々な困りごとが起こります。その問題をどのように解決すればいいのか、そもそもどこに相談すればいいのかということになります。住民の方が困りごとを身近に相談できるように、年2回開かれている「小笠原くらしの法律税金相談会」に、私たち2人の公証人(神田公証役場小島浩、昭和通り公証役場山口雅髙)も、NPO司法過疎サポートネットワークの弁護士5名、司法書士2名、税理士5名の方々とともに参加してきました。この相談会は、歴史があり、何と36回を数えます。今回参加されている方も、36回すべて参加されている方から私たちのような初めての方まで経験・老若男女多様な方々でした。
2 日程は、令和元年9月19日(木)から9月24日(火)までで、台風が怖いシーズンでしたが、9月19日午前11時に竹芝桟橋を出発し、翌20日午前11時に小笠原父島に到着しました。心がけが良かったせいか、比較的穏やかな海上で、カツオドリが舞い、沈む夕陽と昇る朝日の大海原を見ることができました。
3 相談会の様子をお伝えします。父島に到着後、母島班と父島班の二班に分かれました。母島は父島からさらに2時間の船旅ですが、父島までの24時間の船旅のせいか、短く感じました。
父島班(山口担当)は、9月20日午後から、まず地域の方々に理解を深めてもらうため、小笠原村地域福祉センターにおいて、遺言に関する寸劇を行いました。この寸劇は、弁護士、司法書士及び税理士がサザエさんの家族に扮し、波平、カツオ、マスオなど、各自の役どころの立場から相続に関する理解を述べ合うもので、寸劇の後、専門的な観点からの説明を行いました。父島班では、同日夕刻から法律税務相談会を実施しましたが、そこで御夫婦の遺言公正証書を作成しました。翌9月21日も、父島班では午前から地域福祉センターで法律税務相談会を実施しましたが、ここでも遺言公正証書を作成しました。それは、遺言公正証書を作成した御主人の死後、奥様が新たな遺言公正証書を作成したというものでした。
4 母島班(小島担当)は、9月21日(金)夜7時から9時までと翌22日(土)の2日間にかけて、相談を受けました。中には、直ぐには解決しにくい名誉等をめぐる諍いや税金の問題等もあり、幅広く、視野の広い豊かな法的知識と人間観察、洞察力が必要と思われる難しい案件もありました。といっても、公証人の私が活躍する場面は残念ながらありませんでした。見習いにきた大ベテランの困りごと相談員という風情のまま終わりました。反省会は非常に充実しており、深夜未明まで、聴く人によっては「我が人生を語る」と色分けされるかもしれない真摯な議論が交わされ、島の暮らし振りとは異なる都会的喧噪を醸し出したかもしれません。なお、反省会は船中でも続々編があり、大いに学ぶことができました。満天の★★、天の川に護られ、海からの贈り物をもらって生きていることを実感しながら、父島に戻り、翌日遺言公正証書を作成して、少しだけ役に立つことができました。その折、父島在住の四元土地家屋調査士の事務所の機器をお借りし、現地の方々の協力あってこその相談会だと改めて感じました。この場をお借りして、四元先生、役場の方々始め関係者の皆様、そしてNPO司法過疎サポートネットワークの先生方々に公私にわたり歓迎していただきました。心を込めてありがとうございます。
5 離島に暮らす村民の方々が、今回のような公証人による相続や遺言等公証相談に期待を寄せていることを実感することのできた相談会でした。離島に対する公証業務の広報活動を充実させる必要性を強く感じる機会となりました。
神田公証役場 小島 浩
昭和通り公証役場 山口雅髙



平成31年2月の小笠原諸島における公証相談
私たち公証人2名は、平成31年2月8日(金)から13日(水)までの日程で、NPO司法過疎サポートネットワークの弁護士3名、司法書士2名、税理士3名とともに、第35回「小笠原くらしの法律税金相談会」に参加しました。
父島では、遺言公正証書1通を作成しましたが、小笠原島で唯一の士業者である土地家屋調査士の方の仲介で事前準備ができていたので、円滑に作成できました。
母島では、認証が1件ありましたが、役場の職員の方の仲介で嘱託人と事前にやり取りできていたので、これも問題なく認証できました。
新規のものとしては、遺言相談が父島で2件、母島で1件ありました。小笠原諸島では、相続人に帰島意思がない場合に、近所の方に遺贈を考える方もおられるようです。空き家問題も心配されますが、父島・母島とも町民の高齢化が進んでおり、相続を巡る問題が次第に深刻化している状況が窺えました。
麻布公証役場公証人 徳田 薫
八王子公証役場公証人 中島 行博


平成30年7月の小笠原諸島における公証相談
平成30年7月14日(土)から同月19日(木)まで(船中2泊、現地3泊)、NPO司法過疎サポートネットワークの弁護士5名、税理士3名、司法書士2名とともに、「第34回小笠原くらしの法律税金相談会」に参加しました。弁護士、税理士、司法書士は父島班と母島班に分かれましたが、今回公証人は一人でしたので、私が父島と母島両島を担当しました。
父島では、到着した当日の夜、事前に弁護士を通して依頼を受けていた遺言者方に赴いて、遺言公正証書1通を作成しました。
母島では、高齢の方から「遺言公正証書を作成したかどうか記憶が曖昧になってしまった。」という相談があり、私の所属役場である中野公証役場の協力を得て、コンピューターシステムによる遺言検索を行いました。また、遺言公正証書変更の相談を1件受けたほか、公証業務に関係のある相談について、弁護士とともに助言するなどしました。
今回の相談会全体の相談件数は、父島が16件、母島が9件の合計25件でした(うち4件は従前の相談会からの継続案件)。この合計25件のうち相続・遺言関係が9件と最も多く、不動産の所有・譲渡関係の4件及び税金関係の4件を上回っていました。
小笠原諸島には、家族間で国籍が異なる方、家族が米国に在住している方、家族が島を離れて本土で生活しており音信が途絶えている方など、家族関係が複雑な方が多くいらっしゃると聞きました。また、土地の権利関係も複雑なケースが散見されるようです。このような状況のもと、小笠原諸島も高齢化が進んでおり、遺言公正証書を作成しておく必要性が高い方が相当数いらっしゃるのではないかと思います。今回父島で遺言公正証書を作成した方も、ご家族の一部が米国籍で米国に在住しているなど家族関係が複雑であることから、相続手続がスムーズに進むようにと思い、遺言公正証書を作成することにしたとのことでした。
この相談会は毎年2回開催されており、毎回公証人が参加していますので、今後、より多くの島民の方々に足を運んでいただき、ご相談いただけたら嬉しく思います。
中野公証役場公証人 森 悦子


平成30年1月の小笠原諸島における公証相談
平成30年1月19日(金)と20日(土)、小笠原の父島と母島で、弁護士、税理士、司法書士及び公証人総勢10名による法律・税金相談会(第33回)が開催されました(父島・母島担当それぞれ5名)。
相談件数は、父島15件、母島8件で、今回は、遺言公正証書の作成が4件ありました(父島2件、母島2件)。
貴重な公証相談等の機会として、島民のみなさんの間でこの企画が定着しているとあらためて感じました。
王子公証役場 公証人 久我泰博
神田公証役場 公証人 林 正彦


ペットボトルの水でザトウクジラとメグロ(特別天然記念物絶滅危惧種)の絵を描いてくれました。


平成29年7月の小笠原諸島における公証相談
私たち公証人2名は、平成29年7月12日(水曜日)から7月17日(月曜日) までの6日間の日程で、NPO司法過疎サポートネットワークの弁護士3名、司法書士2名、税理士5名とともに、「第32回小笠原村くらしの法律税金相談・法律教室」に参加しました。
小笠原への交通機関は、週1回就航の「おがさわら丸」しかなく、7月12日午前11時に東京の竹芝桟橋を出て、約24時間の船旅となりましたが、天候にも恵まれ、海が荒れることもなく、7月13日午後11時に無事小笠原の父島に到着しました。
ここで、母島班7名は、12時に母島に向けて再度の船旅に出発し、父島に残った父島班9名は、午後7時から午後9時まで、父島の地域福祉センターで、法律税金相談を実施し、母島班も午後7時から午後9時まで母島の村役場で法律税金相談を実施しました。
翌7月14日も、父島班では、午前9時から午後5時まで、地域福祉センターで法律前金相談を実施し、ここで、母島から戻った母島班と合流して、午後6時から午後7時まで、「相続・遺言の基礎知識」と題して法律教室を実施しましたが、受講者からは、公正証書遺言についての質問もなされました。
この2日間で、父島の相談利用者は19人22件であり、母島の相談利用者は5人6件であり、法律教室参加者は2名でありました。相談内容は、不動産取引6件、相続4件、税金5件、近隣関係2件、家族関係1件、会社関係1件、借地関係1件、境界関係1件、その他7件の合計28件でありました。
小笠原諸島には公証役場や弁護士事務所、司法書士事務所はなく、東京都区内に赴くのには、片道約24時間を要する週1回就航の「おがさわら丸」を利用するしかない交通事情のもとにおいて、今回のように公証人が出向いて公証相談を行うことは、意義のあることだと再認識させられました。
神田公証役場 公証人 清水研一
八重洲公証役場 公証人 石田一宏